偶然と必然 — 美容師コンノ ⑤

コンノにとって、苦渋の決断ではあった。

2016年に独立し、渋谷のサロンでフリーランスをスタート。2017年からは、それと並行してボリュームアップエクステ開発のためTUMUGUへ加入し、そこから約2年間、全身全霊を懸けて臨んだ

お客様にとって必ずプラスになる技術のはずだ。そして、結果的にこの技術の習得が、自分の強みにもなる。

そう信じて、努力を積み重ねた。

しかし、開発が頓挫した2019年の末に、あえなくTUMUGUを脱退。

「いったん、渋谷での自分のサロンワークに専念しよう」


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面貸しによりサロンワークを行なっていた渋谷のサロンでは、集客にホットペッパービューティ(HPB)のオンライン予約システムを使用していなかった。

そのため、コンノの抱えていたお客様は、コンノ自身が路上でお声掛けをしてご来店いただいたお客様のみ。

実際、集客を行なう方法がそれ以外に無かった。面貸しの場合、お店の名前や資金に頼ることなく、自分の美容師としての力量や実績、お客様の口コミ等で集客を行なっていくのが当時の通例であったからだ。

2000年代、大手サロンに勤めていた頃は、アシスタントとしてお声がけに慣れるところからのスタートだった。表参道のあらゆる裏道を、昼夜問わず歩き回った。コンノの足跡の付いていない小道は無い。

フリーランスとして渋谷でそれを続けていくことに、特段ストレスは無かった。

大手勤めの頃と唯一異なったのは、お声掛けでご来店いただいたお客様に対し、責任をもってカウンセリングからドライまで、すべてを自分が担当することだった。

自然と施術にも力が入る。信じてご来店いただいたからには、必ず満足してもらいたい。長い年月をかけて培ってきた経験と技術を活かしカットした。真心を込めてカラーを行なった。

結果として、再度来店していただけるお客様も少しずつ増えて、自分が生活をしていくのには十分なだけの稼ぎはあった。

しかし、そんなコンノの暮らしぶりを見ていたMaruは、必ずしもそれを良しとはしなかった。

「別の集客方法も見つけていく必要があると思うよ」

フリーランスで生計を立てる同志としての老婆心から、常々そんなふうにコンノへ注意喚起をしていたのだった。

路上でのお声掛けのみに依存せず、なおかつHPBに頼ることなく、オンラインでお客様に見つけてもらえるようになる。そのための手段のひとつとして、「エクステ技術をもった美容師」になり、競合との差別化を図っていく。

これが、Maruとコンノにとって、エクステ開発における大きな目標のひとつでもあった。

今まで皆がやっていなかったことをやっていくのだ。簡単なことでは済まないだろう。

そんなことは、開発を始める前からコンノも分かっていた。分かっていてもなお、表参道まで毎日通い開発に参画するのは、想像以上に目まぐるしくハードだった。

当然ながら、カット・カラーを行なう渋谷のお店とお客様には、ご迷惑は掛けられない。ハサミを扱う美容師という仕事において、そもそも過労や睡眠不足は危険を伴う。体調を万全に保つことが、施術の品質を高めるための大前提だった。

かといって、渋谷でのサロンワークを減らそうものなら、またいつ食っていけなくなるか、分かったものではない。

自分の身ひとつで生きていく、フリーランスという働き方。「働き方改革」などと叫ばれて久しい昨今、何かとその「自由な」生き方にフォーカスが当てられがちだが、現実にはどうか。

自らの行動とその成果が、日々の収入にダイレクトに反映される。なかなか気が休まることのない、厳しい世界。メリット・デメリットもあれば、向き不向きもある。

何より、コンノは一度どん底も経験している。二度とあの境遇には戻るまいと、渋谷サロン×TUMUGUのダブルワークには休日返上で、身を粉にして取り組んだ。お客様にも自分自身にとっても、それだけの価値があると信じていたから。

しかし、地道な努力の甲斐もなく、どんなに手を尽くしても、エクステのお客様のご来店はごく少数のままだった。長いこと忍耐力を削られ続け、ついにこらえきれなくなった。

2019年の暮れ、開発チームから抜けたコンノには、時間に余裕のある生活が戻っていた。気持ちにもゆとりができ、心身ともにリラックスできる年末は、久方ぶりだった。

「この生活が続けられれば、ひとまずはそれでいいか」


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ようやく少し落ち着いて過ごそうかという矢先の、2020年初頭。新型コロナウイルスが蔓延し、4月には緊急事態宣言が発令された。

こんなことがあるのか。

恐れていた事態が、現実になってしまった。

発令の当初、美容室の営業に対する風当たりが一時期かなり強くなっていたこともあって、路上でお声掛けは控えねばならなかった。

そもそも路上に人がいないのだから、それが成り立つ状況でもない。

それは、コンノにとって唯一の集客手段が途絶えたことを意味した。

「やばい、詰んだ」



これからどうしていくべきか。自問自答を繰り返した。

美容師だけでやっていけるのか?

もはや、美容師にこだわらなくてもいいのか?

これまでの顧客様は、コロナのほとぼりが冷めたら来てくれるのだろうか。仮に来てもらえたとして、新規のお客様は?当分、世の中の動きが下火になるであろうことは明らかだ。

美容師として尻すぼみになっていく、ネガティブな将来だけは脳裏に浮かぶ。何より、コロナ禍がいつまで続くか、誰にも見当がついていない。

絶望的な状況。

「もう美容師を辞めるのもひとつかな、って思うんですよね」

定期的にLINEで連絡をくれていたMaruに対しても、コンノは正直な心境を吐露していた。

美容師業の外に目を向けてみる。

そういえば、少しインテリアにも興味が湧き始めていたところだった。

「バイトでもするか…」

店員になったら、社員割引なんかもあるかもしれない。好みのテイストの家具屋さん数社に、直接電話して求人しているかどうか、一通り確認してみた。

わかってはいたが、オールNG。

それはそうだ。どこも求人どころか、むしろ人が余ってしまっているくらいなのだから。

そんななか、自宅でテレビを見ていてアッと思い立った。

「そうだ、俺には自転車がある。UberEatsもイイ」

そう、山あり谷ありの爆走人生を潜り抜けてきたコンノの隣には、いつもコイツがいた。長年に渡って毎日乗り回してきたコンノにとって、愛車はもはや身体の一部と言えるレベルだった。

ニーズはあった。緊急事態宣言以降、人々が在宅を強いられたことで、フードデリバリーの利便性に対する認知と需要が、加速度的に高まっていたのだ。

とにかく、この先どう転んでいくのか。その展望が見えない不安を紛らわせないと、居ても立ってもいられなかった。食いつなぐために、できることをやっていかねば。その思いだけだった。

そうこうするうちに、4月の宣言から約2か月が経ち、コンノが面貸しを行なっていた渋谷のヘアサロンは、ついに経営が立ち行かなくなり廃業に追い込まれた。

お客様へのサロンワークを行なえる場所が、物理的に消滅した。


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2019年10月頃にコンノがTUMUGUを脱退した直後、12月にKiRiKoの田園調布店、その翌月にMaru自身の代官山店が出店となっていた。

これら2店舗の出店を経て、一度は頓挫しそうになったボリュームアップエクステのサービスの真髄を、Maruはようやくつかみかけていた。

エクステが本当に喜んでもらえるために、何が必要なのか。それが明確になりつつあったのだった。

渋谷でのサロンワークへと路線を戻していたコンノは、2店舗の出店については聞き及んでいたが、こうしてエクステが音を立てて進展し始めたことを関知していなかった。

初のコロナ感染者が報道される前から、Maruは脱退したコンノへの連絡を続けていた。代官山店に、自分のセット面だけでなく、コンノのセット面も作って合計2席にできるよう、段取りを進めていたのだった。

「コンノのセット面も用意してあるからね」

とはいえ、コンノのほうからすれば、そもそもコンノからTUMUGU脱退をお願いしたわけなので、じゃあ戻りますと言っておいそれと戻るわけにもいかなかった。

「ありがたいんですが、しばらく渋谷でやりますよ」

そう言って遠慮していた半年後に、その渋谷のサロンがコロナ禍で廃業となってしまったのだった。

コンノはお客様を施術できる場所を失い、結果的にMaruを頼ることとなった。

「渋谷のお店が、立ち行かなくなりました」
「じゃ、代官山でやったらいいよ」



コロナ禍の発生は、まったくの偶然だった。それが無ければ、もしかしたらコンノは、今なお渋谷のサロンでフリーランスをしていたのかもしれない。

KiRiKoがエクステに興味を持ち、Maruへ連絡を取ったこと。田園調布に打ってつけの物件がぽっかり空いたこと。Maruがそこでお客様をお試し施術し、代官山出店を決めたこと。

エクステと店舗運営のコンセプトが結びつき、明確に定まったこと。コンノ脱退後まもなく、コロナ禍が発生してしまったこと。コンノのTUMUGU再加入が決まり、代官山店に移ったこと。

ひとつひとつを見れば単なる偶然でも、一人ひとり全員が考え続け、行動を起こし続けた結果だと思うと、なにか必然でもあったようにも感じる。


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こうして、コンノが復帰したTUMUGUは、2020年6月から、Maru、KiRiKo、コンノの美容師3名体制での再スタートとなる。

4月~5月には2店舗ともお客様のご来店が途絶えていたものの、5月末の宣言解除を経て6月以降、長いお付き合いの顧客様を皮切りに、徐々に戻ってきてくれるようになった。

ふたを開けてみれば、2店舗ともMaruの売上のみで運営を維持していけることが判明。同時期に、KiRiKoもMaruも「自分の店で施術している」という実感がようやく高まり、純粋にサロンワークを楽しめる心境へと変化していた。

宣言1回目の前後は本当に多くの変化が必要とされ、実際には2か月だったと言われても信じられないくらい、はるかに長い時間のように感じられた。

長く暗いトンネルを抜け、やっと2020年の下半期には出店以降のバタバタとした日々が一段落つきつつあった。



ひとまず安堵はできたなかで、宣言解除以降、全員の課題となっていたのが、新規のお客様の獲得だった。

「不要不急の外出」もできるようになったとはいえ、在宅勤務が世の中に広く浸透し、外出する人口の母数が圧倒的に小さくなったことで、客足は伸び悩んでいた。

そんななかで、KiRiKoから声が上がった。

「やっぱり、ホットペッパービューティのサイトを持ちたいです」

「物語を紡ぐ」カテゴリーでは、マネージャーのJUNが「大人女性向け完全個室ヘアサロン」TUMUGUのことをつづります。自社開発エクステの経緯、それぞれのメンバーの生い立ち、各店舗の出店の裏側、HPBサイト活用など。気楽に読んでもらえたらうれしいです。

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